障害のあるご家族の未来を考える:介護者が今から始める「親亡き後」の準備と支援
「しなやかな生き方ラボ」をご覧いただき、ありがとうございます。長年にわたり障害のあるご家族を支えてこられた皆様の中には、「自分に何かあったら、この子は一体どうなるのだろう」といった、「親亡き後」に対する漠然とした不安を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
この不安は、介護されている皆様にとって非常に現実的で切実なものです。しかし、このテーマは重く感じられ、どこから手を付けて良いか分からず、後回しになりがちかもしれません。この記事では、障害のあるご家族が将来にわたって安心して生活できるよう、今からできる具体的な準備と支援策について、分かりやすくご説明いたします。
「親亡き後」に備えることの重要性
「親亡き後」の準備を進めることは、単にご家族の将来のためだけではありません。介護者である皆様自身の精神的な負担を軽減し、今をより心穏やかに過ごすためにも非常に重要です。具体的な準備を進めることで、将来に対する見通しが立ち、漠然とした不安が解消され、心の余裕が生まれることにつながります。
この準備は一度に全てを完結させる必要はありません。少しずつ、ご自身のペースで情報を集め、計画を立てていくことが大切です。
障害のあるご家族の生活を支える主な制度と仕組み
ご家族が将来にわたって安心して生活を送るためには、公的な支援制度や法的な仕組みを理解し、適切に活用することが鍵となります。
1. 成年後見制度の活用
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度です。財産管理や契約などの法律行為を本人に代わって行い、本人の権利を守ります。
- 法定後見制度: すでに判断能力が不十分な状態にある方が対象です。家庭裁判所が本人にとって最適な後見人等(後見人、保佐人、補助人)を選任します。後見人は本人の財産管理や法律行為を全て行い、保佐人や補助人は本人が行えない一部の法律行為を支援します。
- 任意後見制度: 本人がまだ十分な判断能力を持っているうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめご自身で後見人となる方(任意後見人)と、どのような支援をしてもらうかについて契約(任意後見契約)を結んでおく制度です。
ご家族の状況に合わせて、どちらの制度が適切かを検討することが重要です。手続きには専門的な知識が必要となるため、司法書士や弁護士などの専門家への相談が推奨されます。
2. 障害者総合支援法に基づくサービス
「障害者総合支援法」は、障害のある方々が地域で自立した生活を送れるよう、さまざまなサービスを提供する法律です。この法律に基づくサービスは、ご家族が「親亡き後」も継続して適切な支援を受けながら生活していく上で不可欠となります。
- グループホーム・ケアホーム: 共同生活を送る住居の場を提供し、生活支援や介護サービスを提供します。地域での生活を継続するための選択肢の一つです。
- 居宅介護・短期入所(ショートステイ): 居宅介護は自宅で生活する方に、入浴、排せつ、食事などの介助や家事援助を行います。短期入所(ショートステイ)は、介護者の病気や休養などの際に、一時的に施設に入所して生活支援を受けることができるサービスです。
- 日中活動支援:
- 生活介護: 常に介護が必要な方に対して、入浴、排せつ、食事などの介助や創作活動、生産活動の機会を提供します。
- 就労継続支援: 一般企業での就労が難しい方に対し、生産活動の機会提供や就労に必要な知識・能力向上のための訓練を行います。A型(雇用契約あり)とB型(雇用契約なし)があります。
これらのサービスを将来にわたってどのように利用していくか、具体的な利用計画を立てておくことが大切です。
3. 金銭的な支援の検討と財産管理
ご家族の経済的な安定は、生活を継続する上で非常に重要です。
- 障害年金・特別障害者手当などの継続: 現在受給されている手当や年金が、介護者がいなくなった後もご家族の生活を支える大切な柱となります。受給資格や手続きについて改めて確認しておくことが大切です。
- 財産管理と信託制度: ご家族の将来の生活資金を確保し、管理するための方法として、特定贈与信託などの活用が考えられます。
- 特定贈与信託: 障害のあるご家族のために金銭を信託する制度です。親族などが財産を信託銀行等に預け、信託銀行等がその財産を管理・運用し、障害のあるご家族の生活費などに充てていきます。贈与税の非課税枠が設定されており、税制上の優遇措置もあります。
これらの金銭的な支援について、ご家族の状況やニーズに合わせて検討し、専門家(税理士、金融機関の担当者など)に相談することをお勧めいたします。
誰に相談すれば良いのか:専門機関と連携のすすめ
「親亡き後」の準備は多岐にわたり、一人で全てを解決しようとすると大きな負担になります。信頼できる専門機関と連携し、支援を得ることが重要です。
- 地域包括支援センター: 高齢者やそのご家族の総合的な相談窓口です。地域によっては障害のある方に関する相談も受け付けています。
- 相談支援事業所: 障害のある方やそのご家族からの相談を受け、必要な情報提供やサービス等利用計画の作成支援を行います。
- 弁護士・司法書士: 成年後見制度の利用手続きや、遺産分割、遺言書の作成など、法的な側面からの支援を受けられます。
- 社会福祉協議会: 福祉に関する様々な相談に応じ、地域での生活を支える活動を行っています。
これらの専門機関と早めに繋がりを持ち、情報を共有することで、いざという時の支援がスムーズになります。
介護者自身の心のケアと家族会議のすすめ
将来の不安を一人で抱え込むことは、心身の健康にも影響を及ぼしかねません。
- 不安の共有: 配偶者、他の兄弟姉妹、親族など、ご家族の中で情報を共有し、共に考える機会を持つことが大切です。家族会議を通じて、それぞれの役割分担や意向を確認し、協力体制を築くことをお勧めします。
- 段階的な準備: 全ての準備を完璧に整える必要はありません。まずは情報収集から始め、少しずつ具体的な行動に移していくことで、気持ちが楽になることもあります。
- 自身の健康維持: 介護者自身の心身の健康が何よりも大切です。準備を進める中で疲労を感じた場合は、無理をせず休息を取り、必要であれば専門家のカウンセリングを受けることも検討してください。
まとめ
「親亡き後」の準備は、障害のあるご家族の未来を守り、介護者である皆様自身の心の平穏をもたらす大切な一歩です。成年後見制度や障害者総合支援法に基づくサービス、金銭的な支援の検討など、多角的な視点から計画を進めることが求められます。
焦らず、一つ一つのステップを丁寧に踏み、必要に応じて専門機関の力を借りながら、ご家族みんなで「しなやかな生き方」を築いていくための一助となれば幸いです。